叢書・江別に生きる 10 『野幌原始林物語 ―森と人々とのシンフォニー―』
野幌原始林物語 小山心平、坂本与市、西田秀子、藤倉徹夫、松山 潤、村野紀雄 著 2002年3月発行 定価1,800円(消費税込み)
時は春。森には白い辛夷が咲き乱れ、いま、目覚めたばかりの落葉松のもえぎ色の樹間のむこうに、ところまだら冬化粧の夕張山脈の麗姿がくっきりと浮かびあがる。
草叢に野うさぎが跳梁し、梢から梢へとエゾモモンガが空中遊泳する。澄んだ野鳥の声が森を越え、五月の蒼穹にこだまする。足許からは、土と水の匂い、草の匂い、木の匂い、それらが一斉に駆けのぼり胸中に飛び込み、胸奥に淀む日常の辛気な仕事のこと、大儀な人間関係、妻との不和、子供の不仕末などなど、あれやこれやが一掃され、透明に純化されていく。(森は)まさに壺中の天地だ。
(第2章「森林防火組合の人びと」藤倉徹夫)
目 次
原始林ひとり歩き ―序― 坂本与市
森へのいざない/いのちの季節
第一部 森を守り、森に生きた人々
第一章 野幌原始林は残った・・・・・・・・・・松山 潤
1 原始林分割払い下げの危機
電報来たる/四月一日 出札/四月二日 長官に会う/四月四日 事態進展せず/四月五日 緊急集会開かれる/四月六日 警察動き出す/四月七日 長官上京/四月八日 ついに長官に会う
2 鉄窓観月また風流、草莽の志士・大橋一蔵の開拓事業
北越殖民社の誕生/指導者・大橋一蔵/率先、北海道開拓へ/越後村への入植/突然の死
3 北越の民、いざ北の大地へ
責任分担で募集/土地もちになりたい/いざ、北へ向け出航/樹木深密ニシテ天ヲ見ズ/開拓の鍬入る/収穫始まる/炭焼きの進展/開拓民の住居/生活水と衣服/厳しい日常生活規制
4 関矢孫左衛門の髪の毛
勤王の志士として/形見分けして出陣/群長として銀行頭取として/二兎ヲ追者一兎ヲモ得ズ/孫左衛門の魂、ここに留まる
5 森の恩恵、残された森と未来への伝言
水田の水源として/飲料水、生活水として/防風林、防雪林として/用材、薪材、「山仕事」として/林内副産物の採取/気候調整林として/森林景観として、生活歴として/山師の闊歩する森林荒廃の時代/かくて魔窟殿の観をなせり/石狩大平原に冠たる原始林
第二章 森林防火組合の人びと・・・・・・・・・・藤倉徹夫
1 樹木森々タリ
森との出会い/山野茫々
2 防火組合の誕生
組合の設立/巡視活動/森は泣いている
3 森の恵み
薪用材払い下げ/山菜/キャンピング
4 戦後・再出発
愛護組合の誕生/洞爺丸台風/都市化の波
5 森と都市
児童と愛林活動/連合会の解散
第三章 林業試験場の人びと・・・・・・・・・・西田秀子
1 北海道林業の夜明けと林常夫
「国有林整理綱領」の策定/風の学者 ― 林常夫
2 林業試験場の開設
前史 ― 野幌官林の変遷/「東洋無比」の試験場を志分別に/始業期の人びと 斉藤晋作と新島善直/第一次世界大戦と好景気伐採
3 大正期の森林保存政策と林駒之助
国有林調査終了/謹厳実直の人 ― 林駒之助
4 自然保護思想の台頭と野幌原始林の転換期
「天然保存林区」の設定と「史蹟名勝天然記念物」指定/野幌牡蠣林間大学の開催/野幌官林「森林公園」化の申願
5 林業試験場の発展期
伊達屋敷への移転/林内移民の入植/山祭り/景勝地協会と観光ブーム
6 戦時下の林業試験場
林常夫と山本五十六/陸軍大演習と天皇の行幸/林駒之助の事故死と頌徳碑建立/林業試験場と江別町/供木運動と天然記念物の危機/人も木も…戦時動員
7 戦後のあゆみ
復興と再生のはざまで/野幌国有林解放の是非/林業試験場の統合と試験林の変遷/「特別天然記念物」指定と解除
8 二十一世紀の林業家たち ― 林木育種センターの実験
山林(やま)を愛した二人の功労者と人びと/二十一世紀の林業家たち ― 天然記念物クローン実験
第二部 原始林余話
第一章 農村に生きる-『野幌部落史』を書いた関矢マリ子と留作・・・・・・・・・・西田秀子
1 新潟から野幌へ~戦前の生活
『野幌部落史』について/結婚/留作と野呂榮太郎/関矢マリ子の生い立ち/マルクス主義に傾倒/関矢留作の生い立ち/東大農経から農民運動へ/四・一六検挙と見合い/壁の中の思索とマリ子への恋文/獄中書簡/帰郷・『野幌部落史』の調査/留作の急死
2 思索と執筆~戦時下の生活
『野幌部落史』の脱稿/『野幌部落小史』の発表/新聞・雑誌への執筆開始
3 北海道史研究家として ~戦後の生活と活動
「あなた戦争は終わりましたよ」/農地改革とラデジンスキーの視察/『野幌部落史』 ― もうひとつの『日本資本主義発達史』の刊行/北海道史・女性史研究家として/晩年のマリ子/千本林と欅
第二章 機農学校の齢七先生・・・・・・・・・・小山心平
1 ある遺作色紙展
2 原始林を眺めて育つ少年
空知農学校時代
3 「ためになる」と喜んだ受講の農村青年たち
野幌実科農学校/野幌実科農学校の教員になる/教育に対する一種の狂気が……/結婚
4 野幌機農学校の創設
ジンギスカンの味/野幌機農学校の創設~第一期生苦闘の第一歩/札幌まで入浴に行く
5 北方機農派遣隊の引率
父の家庭教育観
6 野幌機農学校の“ドッコイさん”
ニックネーム「ドッコイさん」の由来/機農高校教師同僚が語る五十嵐齢七の実像/仕送りの話
7 暗箱写真機をかついで村人の暮らしを撮影
写真を通して伺える齢七の教科書
8 読むのが楽しい齢七の教科書
作って食べる喜び
9 脳卒中で倒れる ~左手で字を書き絵を描く~
父と母への思い/五十嵐齢七(一九九八)『画集野幌開拓のころ』
10 「死んだら村の寺で…」
第三部 原始林の自然
原始林の自然―四季と生きものたち― ・・・・・・・・・村野紀雄
1 四季
2 生きものたち(動植物目録)
あとがき・・・・・・・・・坂本与市