叢書・江別に生きる 1 『世田谷物語』
太田恒雄 著 1989年3月発行 定価1,800円(消費税込み)
「帝都戦災者の北海道開拓集団帰農者を『拓北農兵隊』と命名す」
という宣言についで、激励のあいさつがあった。
“兵隊”という名を冠せられたのではあるが、この一行のいでたちを見ると、ヨレヨレの軍服のような服に、足にはゲートルを巻き、戦闘帽をかぶり、背にはストーブをくくり付けたりした男性。女性は、これも継ぎはぎだらけの着物にモンペをはき、ズックの靴。腰には子供がまとわりついている。いかにも“兵隊”というにはふさわしくない集団である。都長官のあいさつの後、北海道の小樽高商(現・小樽商大)を卒業した、拓北農兵隊江別隊の隊長・佐藤国松は、第一陣隊員を代表して、
「われら拓北農兵隊は国家存亡の重大時期にあるを深く胸に収め、食糧増産の重大性に鑑み、御訓辞を拝し、挺身国家の要請にこたえ、農の大本に帰し、もって農兵たるの本分を全うせんことを期します」
と力強く宣言した。
(本文第2章より)
目 次
第一章 戦 禍
皆殺しの爆撃
帝都からの口減らし作戦
世田谷と軍関係施設
北海道開拓協会が帰農者を募る
子供たちは学童疎開
壮行歌をつくる
第二章 出 発
追い出し作戦に拍車がかかる
空襲のあい間をぬって上野をたつ
夢と不安を乗せて列車は進む
最北の地に立つ
第三章 泥 炭
雨露をしのぐのは牛舎の二階
原始林へ木の切り出しに
「朕ハ共同宣言ヲ受諾スル…」の放送
生い立ち、浜田政雄の場合
千石興太郎が農商相に
昭和二十年は凶作
世田谷部落の誕生
第四章 標 柱
野火とネズミ
入植記念の標柱を立てる
農業一年生
会誌『新雪』の誕生
英語が話せる世田谷部落
第五章 青 年
青年館の屋根が吹き飛ぶ
世田谷倶楽部が落成
情報集めと土づくりの準備
馬ソリによる客土始まる
世田谷農業実行組合が誕生
協和青年会の初しごとは運動会
第六章 新 雪
裸馬を乗り回す小林美佐
子弟の教育と『新雪』
くらしを反映する『新雪』
芝居・落武者部落1
芝居・落武者部落2
第七章 希 望
若者の夢
板橋区、大森区、中野区などの人は
本格的な家を建てる
落ち葉が四枚に
排水と飲み水
電気がつく